遺伝カウンセリングについて

倫理的・社会的側面にも配慮しつつ、患者やその家族の側に立って援助する医療専門職、遺伝カウンセラー

認定遺伝カウンセラーって??

「一人目のこどもが筋ジストロフィー。二人目が欲しいけれど不安で不安で・・・。」

「婚約者の家系に遺伝性神経難病の人がいるそうなんです。結婚した場合,同じ病気を発症する子供の生まれて来る可能性ってあるんですか? それから,まさか彼自身が発症なんていう事は,・・・ないんでしょうか?・・・ちょっと心配です。」

「私たち夫婦の子供が新生児マススクリーニングで引っかかって,最終的にある先天代謝異常症と分かったのですが,夫は『自分の家系にはそんな病気の者はいない。お前の遺伝子のせいだ。』って決めつけるんです。私の家系にだっていません!それでいつも喧嘩です。この子が生まれてから地獄です。遺伝病ってどちらかが悪いものなんですか?きちんとした遺伝のメカニズムというか,正しい遺伝子の情報を知りたいんです。」

「高齢出産は染色体異常児出産の可能性が高くなるって聞いたけれど,本当? 何でなの?」

「ある病院で難病の診断を受け、そこの先生から『遺伝する』って言われたけれど詳しくは話をしてくれなかった。次の世代にどのくらいの確率で伝わるの?治療法はあるの?予防法は?予後は?・・・その後いくつかの病院や診療所を廻ったけれど,誰も私のこういった質問や不安には答えてくれないんです。いつも病気そのものの説明だけなんです。」

これらは遺伝カウンセリングに訪れるクライアントの方々のエピソードのほんの一部にすぎません。我が国では今,遺伝に関するこうした様々な問題や不安を抱えた方々に,専門的な立場から正確で客観的な情報提供を行って誤解を解くと共に,自己決定へ向けての適切な支援を行う医療専門職である遺伝カウンセラーが極端に不足しています。このために今も問題解決も不安解消も叶わないままに苦悩の日々を送る人は少なくないのです。
加えて、先端生命科学の進歩は近年特に目覚ましく,それが与える恩恵は計り知れないものがありますが、半面,今までなら知る由もなかった様々な事実や可能性を否応なく知らされる事にもなり,その結果却って出口の見えない苦悩に落ち込むというケースも増えてきています。

例えば妊婦検診時に何気なく行われている胎児超音波検査から、胎児に異常が発見される事があります。この検査の場合,事前の説明は詳細にはあまりなされないか,あるいはあっても「赤ちゃんが元気に発育しているかみてみましょうね。」程度のものですので,妊婦の方は心の準備が全くと言っていいほど出来ていないまま、突然「異常がありそうだ」などと云われ,元来赤ん坊は五体満足なのが当たり前だと思い込んでいる一般の方々には,まさに青天のへきれきで,突然の不安に恐れおののいてしまうのもです。

加えて日本人特有の言霊(ことだま)思想や縁起を担ぐという特性もからか,検査実施前に「もしかしたらこの検査により重大な異常が見つかるかも知れない」という,「縁起でもない」可能性について話される事はあまり多くはありません。このように検査により明らかになり得る様々な可能性について,事前に医療側から提示なされず心の準備も出来ていないままに,「気軽に」行なわれてしまった検査の末,重大な結果が出され究極の選択を迫られる形となって深刻な戸惑いを覚えるといったケースは少なくありません。

このような事例は、遅発型の遺伝性疾患の発症前診断の場合などにも見受けられる事があります。

遺伝子診断や染色体検査,特殊な化学診断,そして様々な画像診断等々,高度な技術を駆使し診断結果は出たにもかかわらず治す事は出来ない。「先端生命科学技術」という一度開いてしまったパンドラの箱を再び閉じる事は出来ません。診断は出来ても治せない,ならばどうすれば良いのか,箱の隅っこに残っていた小さな「希望」を見つけるように,苦悩を抱える方々への暖かい援助が今,求められています。

先端医療という諸刃の剣,そこから得られる情報をどのように有効に役立てるのか,倫理的・社会的側面も配慮しつつ患者やその家族の側に立って援助する医療専門職である遺伝カウンセラーが今ほど必要とされる時代はないとさえ言えましょう。

以前は、国内では臨床遺伝学専門医や短期の遺伝カウンセリングセミナーの受講修了者の方々が遺伝カウンセリングを担当してきました。
2005年度からは、米国の遺伝カウンセラー、英国の遺伝カウンセリングナース等の制度に近いレベルでの標準化を目標に、大学院修士課程修了者程度の資格を必要とする認定遺伝カウンセラー制度がスタートしました。

認定遺伝カウンセラー制度は日本遺伝カウンセリング学会と日本人類遺伝学会とが共同認定する制度になっています。